2011年11月

2011年11月01日

経営者のための年末調整             第1回 「年末調整の仕組み」

第1回 「 年末調整の仕組み 」

1.年末調整とは
 そもそも年末調整とは、どういった手続きなのでしょう。
 年末調整とは、従業員一人ひとりについて、毎月の給与や賞与の支払いのときに源泉徴収された税額と、その人が1月から12月までに支払いを受けた給与や賞与の総額について納めなければいけない税額(年税額)とを比べて、その過不足額を精算する手続きのことをいいます。
 
 たいていの人は、この年末調整によってその年の所得税の納税が完了し、改めて確定申告をする必要がなくなります。
 
 経営者は、毎年それぞれの従業員が居住する市町村に対して、その従業員の年末調整の結果を報告する義務がありますので、年末調整はとても大切な手続きだといえます。


2.年末調整の対象になる人・ならない人
 年末調整の対象となる人は、「扶養控除申告書」を提出している人です。
扶養控除申告書」は、その年の最初の給与を支払う前に提出してもらう必要があります。もし従業員の中に、まだ提出していない人がいましたら、必ず年末調整を行う前に提出をしてもらわなければいけません。

 「扶養控除申告書」を提出した人で、1年を通じて勤務している人や、年の途中で就職し年末まで勤務している人などが、年末調整の対象になります。
 
 ただし次のような方は年末調整の対象にはなりません。
(1)1年間の給与の合計額が2,000万円を超える人
(2)国内に住所や1年以上の居所がない非居住者
(3)継続して同一の雇用主に雇用されていない、いわゆる日雇い労働者

 これらの方については、年末最後に支払う給与についても、従来どおり源泉徴収を行うことになります。


3.年末ではないのに年末調整?
 年末調整は、年末にしか行わないものではありません。どのような場合に、年末調整の手続きをする必要があるのでしょう。

 まず、死亡により退職した人や、著しい心身の障害により退職した人で本年中に再就職することが明らかに不可能と認められる人については、退職をしたときに年末調整を行います。
 
 そのほかには、年の途中で海外支店などに異動となり、国内に住所や1年以上の居所がない非居住者となった人については、出国の日までに年末調整を行うことになります。
 
 このように、年末ではない時期に年末調整の手続きをしなければいけない人もいますので、注意をしてください。

税理士 加藤 裕二 著


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次回は「年末調整の手続き」についてです。
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経営者のための年末調整             第2回 「年末調整の手続き」

第2回 「 年末調整の手続き 」

1.年末調整の事務手順
 年末調整は、まず従業員一人ひとりから「扶養控除申告書」を提出してもらいます。
年末調整で各種の控除を受けたいと考えている従業員からは「配偶者特別控除申告書・保険料控除申告書」と「住宅借入金等特別控除申告書」も併せて提出してもらいます。

 次に「源泉徴収簿」に、支払った給与や賞与の金額と、社会保険料として控除した金額や源泉徴収した税額を記載し、それぞれ1年間の金額を集計します。
そして、提出された書類を基に各種の控除を行い、課税される給与所得の金額を求め、この金額に一定の税率を乗じた金額が年税額となります。

年税額=課税給与所得金額(※)×税率
(※)課税給与所得金額=給与所得金額−各種所得控除額
   
住宅ローン控除を受ける場合は、課税される給与所得の金額に税率を乗じて求めた金額から、住宅ローン控除額を差し引いて年税額を求めます。

 最後に、すでに源泉徴収された税額と計算された年税額とを比べて、すでに源泉徴収された税額が年税額よりも多ければ、その金額を還付し、源泉徴収された税額が年税額よりも少なければ、不足額を徴収します。


2.年末調整は還付とは限らない
 年末調整は、あくまでも過不足額の精算なので、還付になって手取りが増えることもあれば、徴収になって手取りが減ることもあります。
徴収になるケースとしては、
●扶養親族の人数が減った場合
●給与や賞与の金額が大幅に増加した場合
が考えられます。

【扶養親族の人数が減った場合】
 毎月の給与や賞与について源泉徴収される税額は、支払われる給与の金額扶養親族の人数によって決まります。なぜなら年末調整によって、できるだけ過不足額が出ないようにするためです。そのため、年の途中で扶養親族の人数が減った場合には、年末調整で徴収になります。
 ただし、扶養親族が年の途中で亡くなったとしても、扶養親族の人数が減ったことにはなりません。扶養親族が減るケースとしては、扶養親族としていた人の1年間の所得が一定の金額を超えたため、扶養親族に該当しなくなった場合や、配偶者と離婚して扶養親族でなくなった場合が考えられます。

【給与や賞与の金額が大幅に増加した場合】
 支払われる給与の金額と扶養親族の人数から、おおよその所得金額を求めることができます。この所得金額に税率を乗じて12等分した金額を源泉徴収することで、できるだけ年末調整で過不足額が出ないようになっています。
 給与に対する年税額の計算では、所得金額に応じて税率が5%から33%まで5段階に分けられています。そのため、年の途中で給与の金額が大きく増えた場合には、所得金額も増加し、それに伴って税率も上がることがあります。給与の金額が増える前は、源泉徴収された税額は低い税率で計算されています。
結果的に源泉徴収された税額が、年税額に足りないことになってしまい、年末調整ではその不足額が徴収されることになります。

税理士 加藤 裕二 著


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次回は「年末調整で誤りが多い事例(1)」についてです。
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経営者のための年末調整             第3回 「年末調整で誤りが多い事例(1)」

第3回 「 年末調整で誤りが多い事例(1) 」

第3回と第4回では、年末調整で誤りが多い事例を紹介します。まず今回は、年末調整で受けられる所得控除についての注意点を取り上げます。

1.海外在住の親族も扶養の対象
 扶養親族とは、「生計を一にする親族で、合計所得金額が38万円以下の人」のことを指します。ここでの「生計を一にする」とは、「同居している」という意味ではありません。例えば大学生で一人暮らしをしている子どもに仕送りしている場合や、同居をしていない両親に生活費を援助している場合も、所得金額が38万円以下であれば扶養親族になります。

 また扶養親族には「国内に住んでいる」という要件もありません。例えば海外に両親や兄弟姉妹が住んでいる場合や子どもが留学している場合には、これらの方への仕送りの事実があれば、扶養親族とすることができます。

 年末調整の際に従業員から、海外に住んでいる扶養親族がいると申告があったときには、その扶養親族への仕送りの事実があるかどうか、必ず確認をしてください。


2.配偶者控除と扶養控除は、所得を確認しましょう。
 配偶者控除や扶養控除を受ける場合には、もう一つ注意しなければいけません。それは、控除の対象となっている配偶者や親族の合計所得金額が38万円以下であるかについて、確認をする必要があることです。

 合計所得金額が38万円以下といってもわかりにくいかも知れませんが、一般的には年間の給与収入が103万円以下と言われています。なぜなら給与収入には、年間の収入金額から最低65万円を控除する給与所得控除という制度があるからです。例えば給与収入が103万円の場合には、65万円を控除した38万円が合計所得金額となります。

 この所得要件については、パートやアルバイトで2ヵ所以上の会社に働いている方は、特に注意が必要です。中には、それぞれの会社で給与収入が103万円を超えなければ大丈夫だと思っている方もいるようですが、もちろんすべての会社から支払われた給与の合計で判定します。

 もし、控除の対象者の所得をきちんと確認しないまま、年末調整で配偶者控除や扶養控除を行った場合、対象者の合計所得金額が38万円を超えていると、8月頃に税務署から「扶養控除等の控除誤りの是正について」という通知が届きます。そうなると年末調整を再度やり直すことになりますので、必ず事前に対象者の所得を確認するようにしましょう。


3.寡婦控除の申告漏れに注意
 最近は、離婚をされて一人でお子さんを育てられている方も、多く見受けられます。このような方は、一定の要件を満たせば「寡婦控除」を受けることができます。なお、男性の場合は、「寡夫控除」といいます。
 「寡婦」や「寡夫」とは、次のいずれかに該当する人をいいます。

寡婦の要件】
●夫と死別や離婚した人、または夫の生死が不明な人で、扶養親族や同一生計の子どもがある人
●夫と死別した人、または夫の生死が不明な人で、合計所得金額が500万円以下の人

寡夫の要件】
●妻と死別や離婚した人、または妻の生死が不明な人で、同一生計の子どもがあり、なおかつ合計所得金額が500万円以下の人

 「扶養控除申告書」には、寡婦控除の対象者である旨を記載する欄があるのですが、ほとんどの方は記載をされていません。寡婦控除を忘れると、支払う必要がない税金を負担させることになりますので、必ず確認をしてください。

税理士 加藤 裕二 著


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経営者のための年末調整             第4回 「年末調整で誤りが多い事例(2)」

第4回 「 年末調整で誤りが多い事例(2) 」

第4回は、年末調整で誤りが多い事例の第2弾です。
今回は、年末調整では受けられない控除と、外国人労働者や中途入社した方の年末調整について紹介をします。

1.医療費控除や寄付金控除は出来ません
 だいたい11月頃になりますと、年末調整の書類を従業員から集めるようになります。各種の申告書や、保険料などの支払額についての証明書を提出してもらうのですが、中には医療費の領収書を提出される方がいます。
 そのときは決まって、「医療費控除もやっておいて」と言われるのですが、残念ながら医療費控除は年末調整で行うことができません。医療費控除は、確定申告という手続きで行う必要があります。

 また平成20年から、「ふるさと納税制度」が実施されました。
「ふるさと納税」とは、自分が貢献をしたいと考える地方自治体に寄付という形で納めることで、所得税や住民税から一定の寄付金控除を受けられるという制度です。
ただし、寄付金控除についても年末調整で受けることはできません。医療費控除と同じで確定申告をすることで控除を受けることができます。


2.住宅ローン控除を受けたい人は?
 今年中に、金融機関から借り入れをして住宅を購入し居住を開始すると、10年間で最大400万円の税額控除を受けることができます。また、その住宅が長期優良住宅の認定を受けた場合には、控除額が10年間で最大600万円に引き上げられます。
 
 このため、今年になって住宅を購入し、住宅ローン控除を受けようと考えている方もみえるでしょう。しかしこの場合、今年は年末調整で住宅ローン控除を受けることができません。なぜなら住宅ローン控除は、初年度だけは確定申告を行う必要があるからです。
 なお、初年度に住宅ローン控除を受けるために確定申告を行っていれば、2年目からは年末調整で住宅ローン控除を受けることができます。
 
 年末調整で住宅ローン控除を受ける方がいるときは、確定申告した際に交付される「住宅借入金等特別控除申告書」と、銀行などから送られてくる「借入金残高証明書」を併せて会社に提出してもらいましょう。


3.外国人労働者の年末調整
 国内に住所を有する人と、引き続いて1年以上居所を有する人を「居住者」といいます。
 
 外国人労働者のうち居住者については、国籍にかかわらず年末調整を行うことができます。
しかし、国内に住所や1年以上の居所を有しない、いわゆる非居住者である外国人労働者については、年末調整の対象ではありません。
 なお、非居住者に対して支払う給与や賞与については、源泉徴収する税額は一律支払額の20%になりますので、注意してください。


4.中途入社した方の年末調整
 今年入社された社員で、今年のうちに前の会社から給与の支払いを受けていた場合には、その会社の給与を合算して年末調整を行うことができます。その際には、前職分の源泉徴収票を提出してもらう必要があります。
 源泉徴収票には、支払を受けた給与の金額だけではなく、その給与から差し引かれた社会保険料や源泉徴収された税額が記載されているからで、これらのデータがないと前職分の給与を合算して年末調整を行うことができないからです。

 前職分の源泉徴収票は、通常その会社を退職した時に交付されますが、まだ交付を受けていない場合は、早めに前の会社に連絡をして源泉徴収票を入手してもらいましょう。

税理士 加藤 裕二 著


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